最後のアイスココア

 

 

2022年4月、よく晴れた日の夜。

「付き合おう」『うん、いいよ』

最後の彼女と別れて2年半が経つぼくは、2年付きあった彼氏と3ヶ月前に別れたばかりの彼女と付き合い始めた。

 

 

最初のデート、うちの最寄り駅まで電車で来てくれた彼女を車で迎えに行くと『飲み物買ってきたよ!』と笑顔でカルピスを渡してくれた。

これまで遊んだ子のなかにも途中のコンビニで飲み物を買ってくれた子はいたけど、最初から買ってきてくれた子はいなくて「なんていい子なんだ」とびっくりした。それが顔にも出てたのか『あれ、カルピス嫌いだった?』って彼女が言って「ううん、ありがとう」って変な笑顔で応えてデートが始まった。

 

行先は定番の水族館。彼女はもともと水族館が好きなこともありずーっと笑顔で楽しそうだった。そこまで大きくない水族館を端から端まで楽しんだ後、近くのビーチへ。ドデカ流木があったので2人で座りながら途中のイオンで買ったお菓子を食べる。でっかい飛行機を横目に『夏は沖縄いこうよ』「いいね、でもちょっと秋のほうがいいよ」『ちょっと秋(笑)』「ほんとほんと(笑)」と、なんともしょうもない話をした。

ビーチには石畳の突堤があったからせっかくだし先端まで行くことに。粗めの石畳だったので躓きやすそうな足場だった。「まぁここは」と思い、「危ないよ」と手を出したら『へへ』なんとまぁ恋人繋ぎで握り返される。インテックス大阪全握の井上小百合かよって後から思ったけどこれは一旦無視。

その日はそのままご飯を食べて、また来週ね。と言ってお別れ。

 

 

週末また会える。

 

 

 

そうこうしている間にGWがやって来た。

GWの頭の連休はアウトレットへお買い物。直感で生きてる彼女は気に入ったものをポンポン買っていく。それにつられてぼくもたくさん服を買った。右手に荷物をたくさん持って、左手は彼女の右手を。重いはずの荷物はとても軽く思えた。

その日の夜は彼女の家の近くで散歩。

デートやご飯の後に散歩をするのがルーティン化してきた。

車から降りると、春とはいえ夜は肌寒い。「上着着るか」『そうだね。あ!さっき買ったやつ着る!』と彼女は真っ赤なジャンパーをウキウキした手つきで袋から取り出すと、ニコニコしながら『最高だ』と一言。繋いだ手を前後に大きく振りながら散歩をする。「子供か」『大人ですよーだ』。名前も知らない小さな公園だけど、いいところだな。

 

 

 

折角の連休なので京都へ。前日の夜に電話がかかって来て、集合時間の予定が1時間早くなった。

朝迎えにいくと、眠そうだけど楽しそうな彼女が出てきた。最寄りのコンビニで旅のおやつと飲み物を。ぜったい楽しいじゃんこんなの。

修学旅行かってツッコミたくなるくらいコテコテの観光名所を2人で巡った。

夜ご飯を食べる前に一度宿へ寄って荷物を置く。『ふとんくしゃくしゃにしていい?』とイタズラをする子供のような顔をしている彼女に頷くと、大きなベットに両手を広げてダイブ。大爆笑の彼女の隣で探す夜ご飯は、全部が全部美味しそうだ。

 

ご飯を食べ宿に帰り、お風呂に入ってテレビタイム。鋼の錬金術師が流れていたので「これむっちゃ好き。漫画全巻持ってるくらい」というと『じゃあ今度読みに行こーっと』と彼女。また予定が増えていく。

「そろそろ寝ないと」

『そうだね』

「チェックアウト何時だっけ」

『11時だからゆっくり出来るね』

「じゃあもうちょっと起きてるか」

『うん』

 

 

11時ギリギリまで滞在した宿を出て車へ。旅行最終日の朝に寂しく感じるのはオタクしてた頃と変わらないな。2日目もコテコテの観光名所巡って、旅行は終了。

 

連休が終わってしばらくして、うちに漫画を読みに来た。鋼の錬金術師に没頭する彼女と小説を熟読するぼく。狭い部屋には充分すぎる幸せ。

寝起きに買いに行ったカップラーメンを食べ終えて2人で出かける。また帰ってきてアイスを食べる。

 

ぼくはこれまでの人生で本気で恋したことが無かった。そう思ってしまうほどに、好きだった。

 

 

この幸せが続きますように。

 

 

 

 

でもやはり人生、そう上手くは行かないもので。

 

言葉にできるような出来事があったわけじゃないけど、なんとなく彼女が離れてる気がした。言葉遣い?ニュアンス?言葉にできないけど。ぼくは変なところに敏感なのかもしれない。

ある日の夜中の電話で「幸せ?」と聞いてしまった。もっと言葉を選んで、もっと我慢すれば良かったのに。でも聞いた。

 

 

 

『分かんない』

 

 

5月29日、先週の日曜日の夜。ご飯を食べて散歩をし、途中コンビニで飲み物を買って公園に。ブランコに乗ってなんでもない話をしながら。

 

「この前、幸せかって聞いたじゃない。」

 

話し始めてしまった。なんとなく話したく無かったけど、でもやっぱり話をしないといけない気がして。

 

 

4月のよく晴れた日の夜、告白をした日。『うん、いいよ』のあと、よろしくねと言いながら話していたこと覚えてるかな。『思ったより早かった』「この子はいい子だなと思った。一緒にいたらきっと好きになると思ったから、じゃあもういま言っちゃえと思って告白した」って話。

 

ぼくはちゃんと好きになったよ。

ぼくは一緒にいて幸せだったよ。

 

 

彼女はどうかな。

ちょっと前から気になってた。でも話してしまうのが怖くて聞けなかった。言葉になって交わしてしまうと、その瞬間にそれが現実になってしまうから。

 

 

『大好き。だけど"love"じゃないような気がするの』

『うまく言葉に出来ないけど、恋人として幸せかって言われると分からなくなっちゃう』

『でもちゃんと考えた。そしたら少し離れてみたいって思っちゃった』

 

 

「そっか。分からないもんだね(笑)」

 

『ごめんね。大好きなの。でも、だからちゃんとしたくて。こんな分かんない状態でいるのもなのもダメだと思っちゃうの』

 

 

君が直感的な人間で、うまく言葉に出来ないのは知ってるよ。

ありがとね。涙まで流して考えてくれて。

ありがとね。ぼくにいろいろあった時期に幸せにしてくれて。

ありがとね。気をつかって言葉にしてくれて。

 

 

いつまでかは分からないけど、ぼくはずっと君のことが好きだと思う。また会いたいと思ったら連絡してね。

 

 

ありがとね。

 

 

 

 

 

ブランコの傍に置いてある、君が最後に選んだアイスココアがパタンと倒れた。

 

今年も夏は来るんだなぁ。

 

 

濃くて、淡くて、やさしく甘い春のお話。

 

 

 

読んでくれた人がいるか分かんないけど、ありがとうございました。ぼくは元気にやってます。